『もういちど宙へ』(岩貞るみこ・講談社)は1500円(税別)


『奇跡のイルカフジ・ビジュアルブック』(加藤文男・講談社)は1200円(税別)






「いい仕事」をしていますか――
『もういちど宙へ』(岩貞るみこ・講談社)と 『奇跡のイルカフジ・ビジュアルブック』(加藤文男・講談社)から見えてくるもの



 相変わらず詐欺恐喝傷害殺人などのニュースは後を絶たない。政治家にお金が絡む話は終わらない。加えて最近は「勝ち組」「負け組」とお金だけを基準に人間の評価をしてしまう傾向が顕著である。

 いいのか、これで。

 こんな時代だからこそ、この本に登場する人物がまぶしく見える。羨ましいなぁとさえ思ってしまう。

 これは、イルカの「フジ」と、フジを助けたい一心で力を合わせる人間の物語である。

 原因不明の病気で壊死した尾びれのかわりに人工尾びれを開発・装着させられないか。フジを抱える沖縄県の美ら島水族館の関係者が情熱を傾けるのはある意味で当たり前と言っていい。しかし、この情熱がほかの人たちに伝播してゆく。

 「美ら島水族館の関係者」と書いたが、大勢の人を動かしたのはたった1人の獣医師のフジへの愛情だった。思いがけず口走った「あの子を助けたいんです」という言葉が、周囲の人々の心を揺さぶり、ブリジストンの技術陣を巻き込んで動き出す。

 どんな計画でも全員の賛成で始まることはあまりない。計画が第1歩を踏み出すかどうかは、その中に核となる人が1人いるかどうかにかかっている。フジを助けたいと執念を燃やす1人の獣医師がいなかったら、第1歩を踏み出すこともなかっただろう。

 いったん動き出したものの、人工尾びれの開発は試行錯誤が続く。しかし、誰もあきらめない。

 たかがイルカ、と思う人だっているだろう。確かに、たかがイルカ、ではある。ただ、イルカを救おうという思いを抱き、具体的な行動ができるのは、人間だけである。

 フジの人工尾びれの研究が始まったころ、ブリジストンの技術者に元東大教授がこう言う。「いい仕事していますねえ」

 この本に登場する人々の評価はこの言葉に尽きる。

 大金をもうけて、「いい仕事していますねえ」と言われることはない。「いい仕事」かどうかは、カネとは全く別の基準で判断されるのである。

 「いい仕事」とは何なのか。読者にあらためて突きつけたと言ってもいいだろう。

 「いい仕事」、していますか。

 私も「いい仕事」をしなければならんなぁ。(沖縄王・西野浩史)






©2005, 沖縄王