店舗外観

沖縄製カメラ「PAX」

2台のうち1台の背面にはしっかり「Made In Ryukyu」の刻印が打たれているのが分かる

最古のカメラ。1902年のコダックのボックスカメラ

まるで松本零時さんのような上原降昭さん

見る人が見れば宝石以上の価値が散在する店内。 内地に比べて良質で安価なのが嬉しい


「Made in Ryukyu」のカメラ

 最近若い人の間で一昔前のカメラを持つのが 流行っている。例えばレンジファインダーカメラや オリンパスペン、ロシア製のロモ、ローライなどである。 どれも個性的で、撮りやすい機能は備えていない。 しかし、撮るという行為の過程を楽しめる点や 最近のフルオート機能カメラやデジカメにはない 温かみが魅力的なのだろう。

 てな訳で、今回は県内屈指のクラシックカメラ専門店 「たかちよ」に、店主の上原降昭さんを訪ねた。 店内は広くないのだが、一歩足を踏み入れたら、 そこはカメラの博物館とでも言えそうなくらいの台数が あることに驚かされる。ショーケースに所狭しと並べられている カメラの数は、レンズも含めるとおよそ900近くもあるそうだ。

 そもそも戦後は「たかちよ商会」として建設関係の資材や 木材、ガラス類を扱うのが本業だった。 上原さんの趣味がカメラ集めだった。最初は ミニカメラを中心に集めていて、気が付いた頃には膨大 な数に膨れ上がっていた。それをきっかけに、 今から15年前にほかの業種をたたんでカメラ専門店に 専念した。県内でこれだけの数を取り揃えている店は ほかにない。内地からも買いに来る人がけっこういる らしい。

   「珍しいカメラを見せましょうか?」。ビニールに包まれた 銀色に輝く小型のカメラ2台を上原さんが得意そうに目の前に 突然差し出した。「これはね、かつて沖縄で作られていた カメラなのですよ」

 ええー? ビ−ルやタバコならいざ知らず、カメラがこの 沖縄で?! ビニールを開いた時点で、私の驚きは感動に 変わった。「PAX」と命名されたそれはレンジファインダー式の 小型軽量カメラであった。

 レンジファインダー式とは、 二重焦点式で速写性に優れていることから スナップショット向けである。電池は内臓しておらず、 すべて外光受信部から光を取り入れて 動力に変える優れものだ。 操作性は極めて良好で、シャッター音は静か、 ファインダーの視野はよい。 何よりもデザインが渋い。現在でも充分に 使えるそうだ。

 今から30〜40年以上前に米軍のPX(基地内の売店)のみで 日本円にして1万5000円くらいで売られていたそうだ。 1台の背面には「Made in Ryukyu」とあり、 復帰前の製造であることが分かる。もう1台には復帰後の製造を表す「Made in Okinawa」としっかりと刻印されている。 かつてあった「OK給油所」の社長さんが造っていたらしい。外国人向けに売り出 されていたようだ。

 残念ながら超レアものなので、価格をつけることができない。 先人の逞しさを垣間見ることができ、うれしくなると同時に、 沖縄人としての誇りを感じさせられた。

 今年62歳になる上原さんは、子供たち が独立し、今は悠々自適の毎日である。 「ゆくゆくは妻と2人でカメラの博物館でも持ちたいですねぇ」 とヒゲを触りながら少年っぽい瞳でカメラに 目をやっていたのが印象深い。30分の約束の 取材時間はやがて2時間になろうとしていた。 (沖縄王・BEEN仲栄真)


カメラのたかちよ
場所:那覇市小禄。奥武山公園近くの「能登の海」から 山下交差点向けに30メートルほど先にある「ギャラリー小禄」 のすぐ後ろ
営業時間:午前10時から午後8時まで
電話兼ファクス:098-857-4653




©2003, 有限会社沖縄王