「米軍基地」就職予備校まで登場した沖縄の今
『新潮45』2003年1月号から


 発売中の『新潮45』1月号は面白い記事が 目白押しである。題名を挙げてみると、 <人気AV嬢心中怪死ミステリー>や<日野OL不倫放火殺人 「被害者夫妻10年目の初告白>、<誰が「クラシック音楽」を 殺すのか>、そして日垣隆氏の連載<封印された殺人の記録 心身耗弱こそ 諸悪の根源である>などなど、新聞では書けない記事が山盛りである。

 そんな中に<「米軍基地」就職予備校>という記事がある。 何を隠そう(隠していない)私が書いた。那覇市と沖縄市に ある「国際教育学院」を舞台にすえ、沖縄県内で米軍基地が 就職先として高い人気を集めている事実を指摘し、 米軍基地への就職を希望する人たちや実際に就職している人たちの 声を丹念に拾い上げ、本土の一部で抱かれている 「沖縄県民はみんな基地に反対している」という 大雑把な先入観がどれほど間違っているかを浮き彫りにした。 と同時に、米軍基地に対して変わりつつある県民の意識を 具体的に描いた。

 ――と自分で書くのは面映い。でもここまで書いてしまったから 先に進もう。

 本土にいて、本土の報道会社の報道を通して沖縄を見ると、 上記のような誤った先入観を持たざるをえなくなる場合が多い。 地元報道会社の報道も似たり寄ったりかな。

 「基地がないほうがいい」という記者の「希望」が、 「県民は基地に反対だ」という「事実」になってしまった 可能性がある。「希望」と「事実」は分けて 考えたほうがいい、というか、分けて考えないとダメだと 私は思う。それがゴチャマゼになっている。だから、 ゴチャマゼしているという自覚のない記者による 沖縄報道を見聞きしたら、「沖縄の人は みんな米軍基地に反対しているんだな」とだまされる。

 沖縄には、米軍基地があったほうがいいという声がある。 例えば、「米軍基地があるから、本土の高校生が 修学旅行で平和学習に来る。沖縄から基地がなくなったら、 修学旅行の高校生が来なくなるのではないか」(30代・ホテル勤務の 女性)という意見を聞いたことがある。こういう考えが 若い世代には広がりつつあるように思う。 いつか、こういう考え方をする世代のほうが多数を占める時が 来るのだろう。

 もちろん、この考え方が 正しいか間違っているかというのはまた別問題である。 ただ、この考えを判断するための実証的な数値を 私は持っていないので、正誤の判断を下すことができない。

 いつも気になることがある。 「米軍基地の撤去」を主張する人たちは、米軍基地で 生計をたてている人の生活を壊そうとしていることに 気づいているのだろうか、と。例えば、 県職員労働組合は「自分たちの賃金を削って 基地労働者の生活費をまかなう。だから、一緒に基地撤去運動をしよう」と どうして言わないのだろう。自分の生活は安泰のままで、 人の生活の基盤を壊そうというのは、よほどの恥知らずである。

 基地撤去派の姿勢は「自分の生活は守るけれど 基地で働く人の生活はどうなってもいい」としか私には 見えない。虫がよすぎやしないか。

 キレイゴトを並べるだけで、自分は痛みを背負おうとしない 人たちを、私は信用しない。というわけで、私は基地撤去を主張しない。 生計の基盤をどうするかという切実な問題が解決するか具体的で 実効性のある青写真が提示されない限り、 なんやかんやで1万人以上が依拠する米軍基地は 今のままでもやむをえない、いや、今の沖縄には むしろあったほうがいいと思っている。ただし、 航空機の墜落の危険性と騒音の問題は放っておけないので、 この問題に該当する基地は現在地を県内の別のところに移動する必要がある。 (沖縄王・西野浩史)






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