南風原町喜屋武の綱引きは一見の価値がある

 南風原町の喜屋武で行われる綱引きは夜遅くに 始まる。観光化していないので、 実に素朴な祭りだ。

 旧暦の6月25日と26日に行われる。 今年は8月の3日と4日だった。 初日の模様を紹介しよう。

 午後10時ごろから動き出した。 喜屋武の公民館に置いてある綱を広場付近まで運ぶのだ。 「西」はトラックで運ぶ。「東」は松明を先頭に(写真1枚目)、 坂道を担いで(写真2枚目)下る。
 「東」には“苦難”が科せられている。 カナチ棒で「西」の綱と結合するまでの間、 引き手はずっと綱を担いで待っていなければならないのだ。 そんな「東」の体力を消耗させれば綱引きは有利に運ぶというわけで、 「西」はカナチ棒を入れさせないよう激しく抵抗する。 2つの綱の先頭部分(写真3枚目)では 小競り合いやつかみ合いが起きる。 その間も、「東」はずっと担いでいなければならない。

 激しい攻防の末に2つの綱がカナチ棒で結ばれると、 綱引きの始まりだ。 双方が必死になって引く(写真4枚目)。カナチ棒の 付近(写真5枚目)では小競り合いが多発する。 つかみ合いになった人が、近くで撮影している私に ぶつかってきた。臨場感があっていい。ただ、 初老のおじさんが転がされたうえ蹴られていたのは、 いただけない。本来おじさんは自分の年齢を考えて 行動を自重すべきではあった。でも、いくら頭に血が上っていても、 転がった人を蹴ってはいけない。
 1回戦は午後11時過ぎに始まり、30分以上引いていた。 「東」の勝ち。2回戦は午前0時ごろから約20分続き、 「西」が勝った。

 祭りが夜行われるのは珍しくない。夏の昼間は暑いから、 夕方以降のしのぎやすい時間に祭りをするのが いいに決まっている。例えば、徳島市の「阿波踊り」や富山県八尾町の 「おわら風の盆」などなどは夜である。 とはいえ、前者は午後10時に、後者は同11時に終わる。 喜屋武の綱引きはその時間から始まる。 かなり夜更かしだ。地域の広場の周辺で行うので、 交通規制をする必要がない。それで時間を 気にせずに済むのかもしれない。通常、祭りには警官が つきものだが、喜屋武では見かけなかった。露店もなかった。

 1回戦で勝った「東」は子供からお年寄りまでが何度も踊って 勝利の喜びを表した(写真6枚目)。一方、2回戦で勝った 「西」は芸達者がいないのか、踊る人は少なく、あっさり終わった。

 戦いの後は後片付けである。「東」は再び綱を担いで 公民館に運ぶ。「西」は広場の隅に置いただけだった。 最後まで楽ちんである。

 那覇の大綱引きと比べると、喜屋武の綱引きの特徴が際立つ。

 集落の人が自分たちで楽しむための祭りである。 それが端的に表れているのが、思い思いの服装だ。 那覇の大綱引きのようなカッコイイ衣装はない。 喜屋武のほうがかえって素朴でいい。

 真剣勝負なのもいい。流血沙汰もあった。 公民館が発行している『上筋から』52号に よると、ほかの地域の綱引きの中には「勝敗を分け合う」ことがある。 いわゆる「八百長」「出来レース」である。喜屋武の綱引きは 熱いのである。

 夜遅く行われるのもいい。喜屋武の住民によると、 「昔はもっと夜遅くから引いていた。でも、子供が夜更かしをするので よくないということになり、早めにするようになった」ということだ。 それでも、すべてが終了したのは午前1時前だった。

 いずれも、中途半端に 観光化していないからできることである。

 午前1時前、道路に散乱する綱の切れ端が、 闘いの激しさを物語る(写真7枚目)。 夏の夜の夢。(沖縄王・西野浩史)






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