映画「ナビィの恋」を観る

1999年作品
出演:平良とみ、西田尚美、登川誠仁、村上淳
監督:中江祐司
「ナビイの恋」オフィシャルホームページ
 超ロングラン上映の映画である。 1999年12月に封切られて以来、現在も日本のどこかで 上映され続けている。

 粟国島を舞台に主人公・奈々子の恋と祖母ナビィの恋が 同時に進んでゆく。行く手には数々の困難が待ち構えているという、 ありきたりといえばありきたりで、何の変哲もない物語である。 では何故、こんなにも惹き付けられるのか? ロングランヒットの 原因は何だ?

 その1つは登場人物の魅力だろう。 どの人物描写も良く出来ていると思う。 中でも一際目立つのは、やはり恵達役の登川誠仁だ。 沖縄民謡界の大御所であり、琉球民謡登川流宗家である彼に、 中江監督は頼みに頼んでようやく出演承諾をもらえた。 よくぞ頑張ってくれた中江監督! と言いたい。

 私はこの恵達の方に感情移入してしまって、 この映画を「恵達の恋」と呼びたいくらいだ。だって、 他の男の人を思い続けるナビィと60年間も一緒に暮らすんだよぉ。 これぞ博愛。それだけに冒頭の福之助との会話で 「女は初めての男が忘れられない」というセリフには ジーンとくるものがある。

 この恵達がお茶目でカワイイのだ。 深刻なシーンで入れ歯を外してふざけたり、 なぜかアメリカかぶれで、三味線でアメリカ国家を奏でたり、 うちなーイングリッシュまで披露する。 「ランチハ、トゥエルブ・フォーリーニ、トゥドゥキリヨ」(ランチは12時40分 に届けておくれ)という具合に。

 あろうことか、民謡界の重鎮が沖縄民謡を替え歌にして 「プリプリお尻が〜♪」なんて歌う。でも、 登川氏ならみんなが許してしまうだろう。 氏がいたおかげでこの映画はおもしろくなったと思う。 「ゴースト」のウーピー・ゴールドバーグのような存在だ。

 沖縄を舞台にした映画やドラマにありがちなことであるが、 内地の役者さんの方言の下手くそさに興醒めしてしまうことが 度々ある。だが、奈々子役の西田尚美はよくぞここまで沖縄なまりを勉強してく れたと思うほど、すごく上手い! 一聴(造語)の価値ありです。

 2つ目は音楽である。沖縄民謡や八重山民謡から オペラ、ケルト音楽までをも網羅させた贅沢な映画だ。 嘉手苅林昌が歌う沖縄民謡の「十九の春」が主に物語の “通奏低音”として使われており、句読点的役目として時折登場する。 惜しくもこの映画が遺作となったので、 彼の歌声を聞ける貴重な作品となった。

 先に挙げた登川誠仁は三味線の早弾きの名手で、 沖縄のジミ・ヘンドリックスと呼ばれている。最後の場面では その早弾きをたっぷり堪能出来る。早弾きといえば、 フィドル奏者のアシュレイ・マックアイザックのステップ・ダンスを 踊りながらの早弾きも必見である。

 これだけの異質な音楽が場面を盛り上げるのだが、 違和感を全く感じさせない。その場面場面に ぴったりと収まっているのだ。

 この映画には、ある大きな仕掛けがある。 テーマ曲をあのマイケル・ナイマンが手掛けているのだ。 芸術性の高いピーター・グリーナウェイ監督の一連作品や 「ガタカ」「ピアノ・レッスン」などを手掛けたあのナイマンである。 ナイマンと日本映画とは、先に「アンネの日記」というアニメ作品で 携わっているが、実写版ではこの映画が初の起用となった。

 どうやってナイマンとナシをつけたのか。その方が気になる。 しかも登川誠仁とのコラボレイトですぜ。 これが興奮せずにいられようか? タイトル曲はその名も「RAFUTI」。ナイマン 独特の切ないようなあの旋律に、登川誠仁の三味線と歌声が重なる。それはもう 鳥肌ものだ。

 以上が、私が分析してみたロングランヒットの理由である。 皆さんはどう思われますか? ちなみに私の一番好きな場面は 恵達と福之助の牧場での会話シーンである。

 恵達の方言には字幕スーパーが出ない。 分かる人だけ笑えるシーンだ。ちょっとした優越感を感じる。 この場面ではあのセリフも登場する。「オッパイが小さいのも、 いいもんだよ」by恵達。(沖縄王・kiyomi G.)






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