駐車場の茂み/那覇


 プランターの花たち/宜野湾


 水たまりの落ち葉/那覇 


 公園の樹影/那覇


今泉真也と行くワッター自然
第6回 夜のトモダチ


 アルバイトに明け暮れて新年を迎えました。 春から秋にかけて野山に遊んだぶん、冬は街なかでの暮らしが続きます。今年は 機械工場と祭りの出店で働きました。 不思議なのは、ほとんど息つく暇のない時間の中で 自然のことがいっそう身近に感じられることです。

 工場の片隅にそっと忍んでいる小さな草。 倉庫の天井で遠慮がちに網を張るクモ。 文字通り狭く四角い窓のような空を高く高く渡ってゆくドバトの群れ。スナック 菓子のかけらをワイワイと運んでゆくたくさんの アリたち。

 人里から離れたところで包まれていた自然の時間は、 街なかのわずかな自然にもちゃんと息づいていて、 慌ただしい日常にもしっかりと一本の芯を通してくれるようです。 どこにいても目に留まるものがあって仲間がいることのうれしさが、僕を支えて くれています。

 仕事の終わった夜、僕(真也)の深夜徘徊が始まります。 昼間には感じなかった魅力を夜の街は発しています。 単純労働の連続だった昼間の反動からか、 神経が余計に開かれているように感じながら カメラを一台持って、公園や廃屋、誰もいない駐車場、すでに閉まった商店街な どをぶらぶらと歩き回っていると、 何か別の世界に迷い込んだような高揚した気分になってゆきます。危ないです。

 もちろんおまわりさんの姿が見えたら さっと身を隠す準備が欠かせません。まるでスパイです。映画の見過ぎかもしれ ません。でも本当に見つかったら最後、どう説明しても、誰か保証人と連絡がと れるまでは解放してくれません(当たり前ですが)。パパラッチみたいな望遠レ ンズを持ち歩くのだけは やめましょう。

 それにしても夜の街は饒舌です。 植物は夜に活動するわけですが、それ以外にも これほど多くの囁きが感じられる時間はないと思います。 生きものだけが自然ではないと常々考えていますが、 明かりの消えた街でうごめくものの多さには驚きます。

 一番多く会うのは、携帯電話を手に座り込む若者たちでしょう。僕もワカモノ タチですが、何となくすることのない時間を 過ごしているようで、実はみんな誰かを何かを待っています。満たされた気持ち で、満たされない気持ちで、みんなそれぞれ、それぞれにしかない出会いを求め ている。彼らのために夜はあるのかもしれない、そんなふうに思う光景がありま す。

 ほんとトモダチって何だろう、と思います。 僕自身は山や海に出ていることが多く、 人間よりもそれ以外の友達のほうが多くなってしまうのですが、やっぱりトモダ チなしではやっていけないでしょう。 ふだんは連絡をとらなくても、今ごろあいつは、 あの人はどうしているだろう、と考える時間が 夜という空間にはあります。以前会ったすべての人、 山やクマや花や樹や風も……。本やテレビでしか 会ったことのない人や場所も……それらをみんな ともだちと呼んでしまいたいけれど、 みんな僕には大切なものです。

 「友達」は、会いたい時に会えないことがある。 でもそれは「友達」が一生懸命生きている証拠のような ものだと思います。そして、それがとてもうれしいのです。

<参考>
深夜徘徊に適した服装/黒いもの。靴は足音のでないもの。目出帽は防寒にもよ い。カメラは万年筆に仕込んだタイプ。……以上、健闘を祈る。





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