やんなっちゃった久米島の一泊旅行

 長い間本島付近に停滞していた台風がようやく遠ざかりかけた9月16日、離島 便のフライトが再開され、私は予定通り久米島一泊旅行に出かけた。

 那覇空港は米国テロ事件の影響で厳戒態勢だ。 搭乗口の(機内持ち込み)手荷物検査で引っかかってしまう。長年使っている 旅行カバンの中に、缶切りなどがカードサイズに収まったトラベルセットと爪切 りセットを入れっ放しにしていたのだ。 入っていることさえ忘れていた私は(つまり、このトラベルセットはあまり使い 道がない)、最初は何がピンポンピンポン鳴っているのか全く分からず、カバン の中の衣類やポーチを みんなの前で広げられ、大変恥ずかしい思いをした。 そして、カバンの中身を少しずつ減らしながら 何度もエックス線を通すうちに、奥底から出てきた トラベルセットが原因であることが分かった。 それらは直ちに「押収」され、「ナイフ」とでっかく書かれた封筒に入れられ た。時期が時期だけにということだろうか、 居合わせた係の人々は、私が悪いことをしたような目で見ている。

 幸先の悪いスタートだ。 「結局、いっつも悪人は野放しで、善良な市民ばかりがとばっちりを受ける!」 と怒りながら、出発時刻ぎりぎりで飛行機に 乗り込む。機内はガラガラだ。フライト時間はたった30分しかない。誰が狙うと いうのか、久米島便! もちろん厳戒態勢は 仕方がない。が、だったら最初から徹底的にやるべきだ!  私のトラベルセットは国内でハイジャック事件が起きた時の 検査を潜り抜けていたんだぞ! と、突発的な怒りが収まらない うちに、飛行機は久米島に到着した。

 空港からホテルまでは路線バスを利用する。 途中土砂が崩れていたり、通行止めの道があったりしたが、終点の日航久米アイ ランドまでは30分ほどで着いた。ここからが本論である。

 チェックインまで時間があったので、 シュノーケルツアーを申し込もうと思い、 ツアーが出ているかどうかを聞きに行く。 ところが、ツアーデスクのスタッフは 「午前中はありません」とそっけない。ニコリともしない。 「午後はあるんですか」と聞くと、「台風で船が壊れたので、 ポイントまで泳いでもらいますけど」。この言い方が非常に 迷惑そうなので、一気に行く気が失せる。 何が気に食わないのか? 連れて行きたくないのか?  気を取り直し、ホテルの外のダイビングショップに行ってみた。 同じように聞くと、「午後だったら別に……」という、 まるでやる気ナシの応対である。このダイビングショップについてガイドブック に書かれた「フレンドリーなスタッフ」という記述はウソだと思った。

 私たちはダイビングをするような風貌ではない。バリバリのダイバーにとって 「シュノーケル」なんて屁みたいなものかもしれない。が、接客というものを少 しは学んだらどうか。 特にツアーデスクよ!  どんな理由があるにせよ「愛想の悪さ」は客商売として 最低だと思う。

 シュノーケルはやめて、自転車を借りることにした。 結局、今回の久米島滞在中、よかったと思えたのはこのサイクリングだけだっ た。ホテルから20分ほどの距離を走って「畳石」に向かう。炎天下、ものすごい 暑さを覚悟していたが、風があるのでとても快適だ。 むしろ自転車を降りた後にどっと汗が吹き出す。 道はずっと平坦で、車はほとんど通らないため、 サイクリング向きの環境だと思った。

 海中道路を通って少し走ると、「畳石」の手前に 「ウミガメ館」がある。周辺の道路はきれいに整備されている。 おととし来た時は工事中のガタガタ道だったので、 ずいぶん変わったなという印象だ。

 入館料300円を払い「ウミガメ館」に入ると、大水槽にはたくさんのウミガメ が泳いでいた。別の水槽ではかわいらしい子ガメたちが、足をバタバタさせてい る。しかし、客は2〜3人。館内はしんと静まり返り、 入館時に自動で流れてきた「うらしま太郎」くんの 「ぼくを助けてくれたのはこのウミガメなんだよ……」 などの説明テープがこだましている。 誰もいない10分間シアターで、「あるウミガメの一生」を見た。 最後には、海に漂うビニール袋をクラゲと間違えて食べ、死んでしまう。 絶滅の危機にさらされているウミガメの現状を、多くの人に伝えようと作られた 映像だ。水槽にいるたくさんのウミガメと同じくらいたくさんの人々が、このウ ミガメ館に足を運んでほしいと思った。

 隣接するレストランで「地鶏親子丼」(800円)を食べた。 久米島の地鶏は有名らしい。グルメでない私には味の違いは 正直分からないが、低脂肪でヘルシーなのだという。 「畳石」へはウミガメ館から歩いて行ける。五角形や六角形の大きな石がどこま でも連なっていて、まるでウミガメの 甲羅のようだ。溶岩が冷える時にこうなったらしいが、 どの岩も本当に規則的で、 まさに自然の神秘といえる。

 サイクリングから戻り、チェックイン後はビーチで過ごす。 ところが、パンフレットの写真のイメージとは ずいぶん異なるビーチだ。 台風の影響だろうとは思うが、大量の海草とさまざまなゴミが砂浜に打ち寄せら れている。 海に入れば、やはり海草がまとわりついて気持ち悪い。 水は濁っている。ホテルのプールで過ごそうにも、一日中 「清掃中」である。まったくツイていない。 そういえば、1999年には「はての浜ツアー」というのに参加したのだが、その際 も打ち寄せられた汚いゴミを目撃してしまった。はての浜は、島の沖合いにある 砂洲で、砂だけの島だ。その砂の白さと周囲の海 は文句なく美しい。だが、砂洲の中央へ行ってみれば、そこにはさまざまなゴミ が散乱している。 せっかく久米島に来たのにゴミの山を見るのか……と、 非常にがっかりしたものだ。

 さて、滞在したホテルもパンフレットの写真の イメージとは違った。素敵なリゾートホテルだろうと思っていたのだが、 海外の三流モーテルと変わらない。 汚れた廊下やエレベーターの壁には3cmほどのゴキブリが うじゃうじゃはっている。部屋のドアを開けると、 ぴょーんと飛んできたりする。部屋に入ると、家具のペンキははがれ、鏡は汚 れ、ベッドのシーツはシミだらけ。おまけにほかの部屋の足音やドアの音が響き 放題である。 申し訳ないけれど、本島の多くのリゾートホテルとは 比べものにならない。

 夕食はホテルの外でとることにし、散歩がてら歩いていると、洒落た居酒屋を 見つけた。外に出ている黒板のメニューもなかなか良さそうだ。しかし、これが 間違いのもとだった。お洒落な店内、どっしりした木のテーブルと椅子に すっかりだまされた。気分良く飲み物を注文したまではよかったが、肝心の食事 が待てど暮らせど出てこない。 やっと出てきたかと思えば「あの値段でこれっぽっち!?」という シロモノである。味だって特別いいわけではない。地元の人を 相手にしていたら、とっくに廃業していただろう。 その後、(我々同様何も知らない)客が増えるにつれ、 オーナーは対応しきれなくなる。私はシビレを切らした。 「時間ないので(あとの料理は)もういいです」と断る。 オーナーは「あと5分でできますが!」と必死だが、 動きがついていけていないのは明らかだ。 「すいませんね」と注文をキャンセルし、食べた分はお金を払って店を出た。し かし、全く食べた気がしない。 こういうのが一番悲しい。仕方なく別の店へ行き、 刺身定食を食べなおした。おいしい。旅行の楽しみの1つは旅先ならではの食事 にある、という当たり前のことを、 特に観光客相手の飲食店やホテルは知っておくべきである。

 「観光立県」という声をよく聞く。しかし、このような現実を 相次いで経験したら、幻滅するばかりだ。私のように沖縄在住の人間でさえガッ クリくる。はるばる本土から やってきた人なら「ガックリ」度はもっと大きいだろう。「2度と来るものか」 と思われてもやむを得ない。観光客相手の最前線に立つ人々は、自分が「観光立 県」を支えているのだというプロ意識を徹底して持ってほしい。言うまでもない 当たり前の話のはずだが、これができていないのはどういうことだろう。

 翌朝、可もなく不可もない普通の朝食バイキングをとり、 空港行きのバスが来るまでひたすら時間をつぶす。 散々なリゾートホテルではあったが、 ラウンジのチョコレートパフェだけはとってもおいしかったとひとつだけフォ ローしておくことにしよう。

 しかし、最後の最後でまた“ガックリ”が追加される。 私が参加した旅行会社のツアーでは、 久米島の空港にある系列の売店で10%割引になる券が ついていた。しかし、その券を使える店には、 私の欲しいお土産が何ひとつ売っていない。その替わりに、本土で作られたと思 えるお土産がずらりと並ぶ。 仕方なく隣の店で買う。せっかくの割引券が使えない なんて……。

 こうして、それでも無事に、久米島の旅は終わった。 帰りの荷物は、機内持ち込みにはせず、チェックインカウンターで預けた。 カウンターで預ける場合も荷物検査はあるのだが、 機内持ち込み時とは違い、爪切りセットなどはすんなりエックス線を 通り抜けた。久米島行きの際最初からこうすればよかったのだ。(M)







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