シロチドリのヒナ3羽


 下校の少年3人


 羽を休める渡り鳥たち


 心を休める人


今泉真也と行くワッター自然
第5回 秘密の浜はアリマスカ?


 自分だけの、または自分だけのものと考えている場所が誰にもあると思いま す。そこを人に話してみようか、秘密のままにしておこうか、たいそう悩むよ うな所です。

 沖縄島で最も変化の激しい土地のひとつに北谷があります。 羽賀健二さんのお店で有名だったり、どでかい観覧車があったりします。 8つのスクリーンを持つ映画館には僕はたびたびお世話になっています。

 この街の外れに、というか船による交易が盛んだった昔は中心だった海岸に、 自然の砂浜がまだ少し残っています。長さ150メートルあまりの浜はコンクリ ートの堤防に遮られて、混雑する車道からは見えません。最近漁港拡張のため 4分の1ほどが埋め立てられ、また狭くなりました。

 県営団地に接した入り口から草をかきわけて浜に下りると、 とたんに車の騒音が遠のき、寄せる波の音に替わります。 視界は街のサイズから解き放たれて、遠くに広がる海原へと自然にのびてゆき ます。足下にはまだ輪郭をちゃんととどめたサンゴの骨がびっしりと敷きつめ られています。座り込んでよく見てみると、貝のかけらが相当混ざっているこ とに気づきます。どれもそう古くなく、つい最近、50〜100年前まではここが 豊かなサンゴの海だったことを思わせます。

 一時期、この浜の掃除を頻繁にしていたころがありました。 大型のビニル袋に毎週10袋あまりも缶やゴム、プラスチックなどの廃物が集ま ります。こうしたゴミ拾いというのは続けているとだんだん快感になってくる もので、つい熱中してしまいます。無心になって釣り糸やゴム草履の抜き型な んかと向き合っている間に、この浜を今でも頼りにしているさまざまな生きも のたちと 出会いました。各地の自然海岸が減ってゆく現在にあって、 彼らにとってここは本当に「寄りどころ」といってもいい場所なのかも しれません。

 海を越える長旅の途中に立ち寄る渡り鳥たち。 彼らはいつからここを知っているのでしょう。

 この小さな浜で毎年卵をかえすシロチドリの夫婦。 5月、デートの人たちで賑わう堤防のすぐ下で、 彼らは冷え込む夜の間ずっとヒナを抱いています。

 朝の散歩に浜へやってくる犬や老人。登下校のたびにわざわざ 浜から通ってゆく子どもたち。砂の干潟に住むカニやエビ、貝たち。 寄ってくる魚。それを獲る人や鳥たち。

 ぼくは大事なお客さんを迎えた時、夜になるとこの浜に一緒に 行くことがあります。人工物のないきれいな浜ならほかにもあるけれど、 車とはいえアパートから海への道をまっすぐ降りてたどりつく 近所感覚のこの浜に行くことが、何かとても大切なことのように 思えてならないのです。

 僕たちは自分の古里の記憶というものを持っています。 けれど、それは過去でなく現在につながるものであって初めて僕らはここに生 きたといえるのではないでしょうか。

 秘密の浜はアリマスカ? …子どもたちに伝えたい古里はアリマスカ?






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