書評 『オバァの喝!』に喝!

 沖縄オバァ研究会編、双葉社刊のこの本は 『おばぁ烈伝』の続編である。『おばぁ烈伝』の書評をせずに 続編を取り上げるのは、私が利用している図書館で 『おばぁ烈伝』を見かけないからという以外に理由はない。 このような本を私はお金を出して買わない。 図書館で借りて斜め読みするだけだ。1時間もあれば読める。 なぜ買わないかと言うと、笑わせようという魂胆が見え見えで、 加えて誇張やうその記述があるからである。 画面が映らないテレビや音の出ないステレオは欠陥品という。 そんなものをわざわざお金を出して買わないでしょ。

 <全国一の長寿県・沖縄。オバァたちの「元気で長生き」を支えている要因の ひとつがお茶>(44ページ)
 こう断言する根拠があるのだろうか。こういうことを言うのは慎重に したほうがいい。こう断言するためには、「お茶」と「長生き」の 因果関係が実証されていなければならない。健康ブームだけに、 データで裏付けされていないものを断定してしまうことの怖さを 知っておいたほうがいい。

 <沖縄のオバァは、大きな道路でも、信号や歩道橋のところまで歩いて行くな どというようなことは絶対にしない。目の前をひょいひょいと上手に渡る>(64 ページ)
 この本の質の低さが端的に分かる記述だ。 なぜならば、信号機のところまで行って青になるのを待つおばあさんはおおぜい いるからだ。
 確かに、信号や歩道橋があるところまで行かずに 道路を横断する人はいる。そういう人は沖縄に限らず年齢男女を問わずどこにで もいる。私だって時々そうしている。
 どこででも見られる光景なのに、まるで沖縄のおばあさんの特徴で あるかのように書くのは、やめようね。

 <県内での法人開業率は全国一位。で、それでうまくいけば問題はないのだ が、企業倒産率はなんと全国ワースト二位なのである><しかし、なんとかにつ ける薬はないとはよくいったもので、沖縄ではこうした傾向が過去十数年にわ たって相も変わらず 続いている>(185ページ)
 沖縄には大きな企業がほとんどない。失業率は本土より高い。そういう環境に おかれても、人は何とかしてお金を稼いで食べていかなくてはならない。開業率 の高さにはそうした背景があると私は思う。
 仲村清司というこの部分の書き手が事実上「バカにつける薬はない」とバカ呼 ばわりしているのは、開業・倒産する沖縄の人である。主語が書かれていないう えに下手くそな文章だが、開業・倒産する沖縄の人に対してバカと言っているの は明らかである。
 開業・倒産をする沖縄の人をバカと言うなら、東京や大阪やそのほかの場所で 開業・倒産をする人もバカということになる。
 起業には倒産の危険があるものだ。それをバカと言える 書き手はいったい何様なのだろうか。こんな本にこそこそ書かずに、 試しに会社を倒産させた人に面と向かって「バカ」と言って みたほうがいいんじゃないの。

 基地移転反対運動をしている名護市辺野古のおばあさんを取り上げて、<基地 移転案が公表されて約四年、ずっとプレハブ小屋でお茶を飲み続け、反対集会が あれば喜んで駆けつけるねばり強さ。なにをいわれても「いくさを経験していな いものにはわからないはずよ」といなしてしまうしたたかさ。もしかしたら、オ バァたちこそ世界最強の市民運動家かもしれない、と思ってしまうのである> (199ページ)
 私の義父は沖縄戦で家族の大半を亡くしている。その話を聞くと、 いつも口が重くなる。いくさを経験した人の気持ちを未経験者の私が同じように 理解するのは非常に難しいと私は感じる。もちろん想像はできるが、想像の域を 出ることは非常に難しい。現在『琉球新報』で連載中の「ひめゆりと生きて 仲 宗根政善日記」では沖縄戦での悲惨な光景と生き残った戦後の様子を自責の念と ともに綴っている。私はその心情を追いながら、沖縄戦を経験していない私には 仲宗根政善さんが背負ったもののわずかさえ実感できていないだろうと感じるこ とがある。だから、「いくさを経験していないものにはわからないはずよ」と言 われれば、私は認めざるを得ない。
 ところが、この筆者は「したたか」と書いた。本当にそう感じたのなら、根拠 を書かなければ説得力がない。それを書かずに「したたか」と 断言するのは無責任である。この部分の書き手はたかだか30代 である。あなたにこんなことを言う資格はない。

 筆者がデタラメを書いてきたら、 それをきちんと指導するのが編集者の仕事だろう。 にもかかわらずそれができていないのは、売れればどんな内容でもいいという企 業方針があるのか編集者が阿呆かのどちらかである。 もしかしたら両方かもしれないが。
 読者を笑わせるために、誇張した沖縄やデタラメな沖縄を描くのは いい加減もうやめよう。沖縄は吉本新喜劇ではないのだ。 ワンパターンで型にはまった沖縄の描写をしても、 出版社と筆者はお金を手に入れることができる。 しかし、いくら影響力はないとはいえ、 偏った印象を押しつけられる沖縄にとって決して いいことではない。
 事実、この本の書き手に対して「沖縄をばかにしている」という声が、沖縄の 人の中から出始めている。 言われる前に自分で気づいたほうがいいと思うよ。 (沖縄王・西野浩史)






©2001, 有限会社沖縄王