書評--必読書『沖縄文化論』


 沖縄に関する本をいくつも読んできた。 この書評コーナーで取り上げたように、意味も根拠もないのに 沖縄のあらゆることをべたほめする本が最近目につく。 ほめれば沖縄は喜ぶと思っているのか、それとも筆者や編集者の 思考が根本的に浅いのか。どちらでもいいが、甘ったるい本が続くと 吐き気を催す。
 沖縄万歳式の見方に私はかなり違和感を覚えるようになっている。 そこで今回は、「沖縄人の奥深くにあるエネルギーが爆発してできた文化」とい う視点から沖縄文化を論じ、批評した岡本太郎の本を紹介したい。(N)

 岡本太郎が著したこの本は1972年10月に中央公論社から刊行され、 毎日出版文化賞を受賞した。今は同じ書名で中公文庫に入っている。 もともとは1960年に10回にわたって『中央公論』で連載したものだ。 復帰前の沖縄を歩いた岡本氏の批評は“辛らつ”である。

 例えば、沖縄のよさを語る時によく挙げられる「青い海」などの 自然景観について、こう書いた。<景色は超現実的に美しいのだが、自然がいく ら美しくたって仕様がない。もちろん結構なことだが、それはなにも沖縄人のせ いじゃない。向うが勝手にそう出来ているんだ>。確かに、自然景観は そこに暮らす人のエネルギーで左右されるものではない。

 霊御殿や首里城の石造芸術の破片、旧王家の遺品などに対しては、 幅広い視点からこう指摘した。<こいつはどうしても沖縄だけにしかない、とい うような凄みがない><もとは中国であり、南方であり、朝鮮、日本である。 (略)いわば借りものであって、沖縄全体がそこからつき出てくるというもので は、残念ながらない>。こういう指摘は沖縄以外のことを知っているから 比較できる。

 この調子で紅型や漆器も一刀両断する。人頭税に至っては<そういう過去をふ りかえって、現在の自分は何も背負わないで、可哀そうだなんてぬけぬけ同情し たり、逆に財産みたいに振りまわすのは、卑しい>と決めつけた。

 沖縄の文化や芸能の保存については<それらはつまりは過去の結晶である。生 甲斐のイリュージョンであって、現在の充実ではない>と斬る。

 ここまで書いていいのかと戸惑い、この本が40年前に書かれたことに驚き、 さらに、私の知る限りでは沖縄の文化についてこの本を上回る言及をした 本がこの40年間出ていないことに絶句せざるを得ない。

 現在の状況に照らし合わせてみると、 非常に厳しい指摘の数々が古くささを感じさせないことに私は気づく。 甘ったるい“ほめ殺し本”の筆者や編集者はこの本を読んだだろうか。 好きな沖縄に対して点数が甘くなるのは仕方のないことかもしれない。 しかし、いい加減、沖縄をほめ殺しにするのはやめよう。よその文化や民俗を 知らないのに、沖縄は特殊だとでっち上げるのはやめよう。まずはこうした ところから始めたい。






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