「オキナワ・ラブストーリー」第1話
もうほかの人は見えない


 森屋太志(仮名・20歳)と福知佐和子(仮名・20歳)。 この2人は遠距離恋愛をしている。太志は地元・ 沖縄の病院で患者の世話をし、 佐和子は岐阜県で働きながら保母の資格を取る 進学就職の道を歩んでいる。

 2人の交際期間は9年になる。ということは、 小学4年のころから付き合っているということだ。 小学生のころは文通をしていたそうだ。 2人そろって北中城高に入学、そこで3年間を過ごす。 高1のころ、2人はとっても小さなことで別れる。

 原因は、女子バレー部の先輩から佐和子が 「あんたたち長いこと付き合ってるね、 飽きたりしないの?」と聞かれ、 「はい、いいかげん飽きました」と答えたことにある。 もちろん冗談なのだが、その話を森屋が聞いて 怒ってしまい、別れた。高1の夏のことだった。

 以降2人は学校で会っても言葉を交わすことは ほとんどなくなった。他人を装っていた。

 高3年の春、ある会で偶然2人は 鉢合わせになって、約2年ぶりに話をした。 この間に2人とも恋人ができたが、 2人そろって偶然同じ時期に別れていた。 2人はやり直すことを話し合い、 2年ぶりに元のさやに収まった。 森屋は佐和子が、佐和子は森屋がいいとあらためて 感じていたのだ。2年間も離れていたのに、 いや、2年間離れていた間に別の人と付き合い、 冷静に自分の気持ちと向き合ったからこそ、 自分にとって大切な人が誰なのかということに 気づいたのだ。

 進路を決めなければならない大事な時期がやってきた。 森屋は沖縄の病院で働くことを、佐和子は看護婦の資格をとるために内地の進学 就職を、それぞれ選んだ。 森屋は佐和子を呼び出し、「佐和子、俺は4年間、お前を待つことはできない し、もし今、待つ約束をしても、4年も待てない。遊んでしまうし、気持ちが変 わるかもしれないから、別れる」と伝えた。佐和子の心の中は分からないが、 別れることにした。

 それから2人は卒業までは仲良くしていた。いよいよ 佐和子が岐阜に行く日、みんなで見送るために 那覇空港に集まった。ところが森屋は集合時間になっても 来ない。出発の時間が来た。佐和子が荷物を持ち、 旅立とうとする時、森屋が走ってやってきた。 渋滞に巻き込まれていたのだった。

 泣きそうになった佐和子の顔を見ながら、 森屋はこう言った。「4年間ぐらい待っててやるから頑張ってこい! 俺はこっ ちで頑張るから」。2人はキスをして お別れした。

 それから2年が過ぎた。2人にとってはものすごく 長い時間だっただろう。しかし、佐和子が休みをとって 沖縄に帰ってくると、必ず2人そろって同じことを言う。 「もうほかの人は見えないし、ほかの人と付き合って また後悔するのは嫌だ。この人しかいない」と。

 佐和子が帰って来るまで、あと2年ある。しかし、 森屋はずっと待っている。ほかの女には見向きもしない。 周囲の友人たちは「これはまじですごい」と思って見守っている。この2人なら きっと幸せになると、みんなそう思っている。







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