書評 『好きになっちゃった沖縄』の勘違い

 沖縄に関する本は数多い。しかし、ひいきの引き倒しや沖縄の特殊性を強調し ようとするあまりの暴論、無理やり面白くしようとして大袈裟に書いたにもかか わらず全然面白くない文章などがある。そのような本と筆者が賢明な読者から笑 われるのは天罰としても、 沖縄が誤解される恐れは残る。これは沖縄にとって マイナスである。そこで、あえて真面目に指摘しておこう と思う。今回取り上げる『好きになっちゃった沖縄』 (双葉社・1998年5月20日第2刷)をざっと斜め読み (1ページ20秒程度)しただけで、9か所もの 不的確な記述を見つけてしまった。(N)


 その1。「沖縄限定のA&Wのメニュー」(17ページの見出し)

 今は本土にA&Wの店があるので、この部分は削除したほうがいい。


 その2。「人に向かって飛んでくるゴキブリは私と目が合い大胆不敵にもニヤ リと笑った」(20ページ見出し)と「ゴキブリが大胆不敵にもニヤリと笑うのを 見た」(20ページ本文中)

 無理に笑いを取ろうとしているのが見え見えで、全然笑えない。「ニヤリと 笑ったように見えた」とでも書くべきだった。念のために記しておくと、ゴキブ リは笑わない。このような嘘の記述は本全体の評価を下げる。


 その3。「沖縄の人は歩かない。どこへ行くのも車かバイクだ」(24ぺージ本 文中)
 
 車やバイクの免許を持っていない人はどうするのだろうという疑問を筆者は抱 かなかったのだろう。でないと、こんな稚拙な内容を書けるはずがない。例え ば、私が住む西原町では歩いている人をたくさん見かける。また、南風原町に住 む高校生の甥っ子はバイク免許を持っていないので、徒歩数十分の距離がある祖 父宅まで歩く。
 そもそも「沖縄の人は……」と決めつけられる事例が本当にあるだろうか。


 その4。「沖縄では、バスは止まるものではなく、止めるものなのである」 (32ページ本文中)と「今回の沖縄滞在で、私はひとつ発見した。(略)バス停 では、(そのバスに)乗りたいときには前に出て手をあげるという行為が、どう もバス運転手への合図になっているらしいのだ」(37ページ本文中)

 手を挙げてバスを止める方法をこの筆者は知らなかったそうで、手を挙げな かった結果止まらなかったバスのことを「バスの乗車拒否」とまで表現してい る。そして、例によって「沖縄では……」と書く。あのね、手を挙げないと止ま らないバスは沖縄だけではない。例えば私の古里・徳島だってそうだ。ほかの地 域のことを調べずに「沖縄では……」と書いてしまう度胸というか無知という か……。沖縄以外の地域をもっともっと見たほうがいい。


 その5。「しばらくして、そのまちや小の近くの食堂で夕飯を食べようと思 い、側を通ると、狭い店のなかで、3人のおばぁが椅子に腰掛けてい話し込んで いた。それは、旅行者ごときには近づき難い光景であった」(63ージ本文中)

 この筆者が住む地元で老人たちが話し込んでいたら近づくのかな。旅行気分で 浮かれているから、このような仰々しい記述をしてしまうのではないだろうか。


 その6「沖縄のてんぷらは衣が厚い」(134ページ本文中)
 またまた出た。「沖縄の」とひとことでくくるけれど、全部調べたのかな。衣 の薄い店を知らないだけでしょうに。


 その7。「沖縄の人には意外と泳げない人が多いというが、海での遊び方、楽 しみ方に関しては実にうまい。人生を楽しむ術を知っているともいえるだろう」 (141ページのビーチパーティーに関するコラム)

 例えば、神奈川県の三浦海岸を見てみると、 アウトドア用品を持って行き、海岸での行楽を楽しんでいる若者や家族連れがた くさんいる。同県逗子市で育った私のいとこたちは、逗子の海で泳いでいたし海 岸で遊んでもいた。でも、こんなことでいちいち「海での遊び方、楽しみ方に関 しては実にうまい」や「人生を楽しむ術を知っている」とは言われない。
 にもかかわらず沖縄で同じようなことをしたら大仰に褒められる。何だかバカ にされているように私は感じてしまう。
 海があるのは沖縄だけではない。沖縄を特別扱いする前に、特別扱いできる事 例かどうか日本中を 調べるべきだ。


 その8。「沖縄を熱っぽく語る主力2紙のエネルギー。でもちょっと笑える」 (162ページ見出し)と「くすっと笑えるホットな地元情報、チラシ、米軍基地 問題、アジアを意識した記事づくり。こんななんでもありのごちゃまぜ感に、沖 縄人らしい体質がうかがえ、けっこううれしい」(163ページ本文中)

 あのね、地元紙というのは、地元に関するネタを中心に幅広く報じるのが使命 なの。私の古里・徳島の地元紙だって「ごちゃまぜ」だ。なのに「徳島人らしい 体質」を私は感じたことがない。新聞づくりを知らない筆者がでたらめを書いて はいけない。ちょっと笑われているのは筆者だよ。


 その9。「なんせ、島には『男のひとりぐらい養えないでなにが女か』という 言葉があるぐらい」(173ページの 本文中)

 周囲の女性数人に聞いてみたが、「こんな言葉は知らない」と言う。いったい いつの時代の話を書いているのだろう。そしていったい誰の言葉なのだろう。仮 にこういう言葉が昔あったとしても、現代には極端すぎる。そんな話で沖縄を説 明すると、読者の誤解を招くだけだ。

 





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